即位礼正殿の儀

ジョンは土砂降りの雨の中、いつものサルーンに転がり込んだ。

店内にはジャスティン・ビーバーの”What Do You Mean?”が大音量で流れていた。

(来た……ヤツだ……)

店内の視線が一斉にジョンのちょんまげに集まる。

ジョンはカウンターに勢いよく体育座りすると

「生絞りグレープフルーツサワーのお湯割りをくれ」と、たどたどしくいつものオーダーをした。

不愛想なマスターはジョンに一瞥もくれずにその場でリンゴを樹からもぎ取ると、力任せに握りつぶし、カウンターに叩きつけた。

「見慣れない顔だな」

そういいながら、中学時代からの同級生のジャックが近づいてきた。

ジャックはこの辺では有名な札付きの悪だ。奴が雨上がりの路地裏でカイワレ大根を売りさばいてるのは周知の事実だ。

ジャックは俺の顔をじいと見つめている。

「そんなに俺の耳にぶら下げたコモドオオトカゲが気になるか?」

ジャックは鼻で笑いながら

「いや、かわいいマフラーだと思ってな」と答えた。

「悪いな、ポチを悪く言われるのは好きじゃない。それ以上言ったら俺の相棒が火を噴くぜ」

ジョンはそういうと腰にぶら下げた”うまい棒明太子味”をちらりと見せた。

「そう熱くなるなよ、軽いジョークさ」ひきつった顔で、胸ぐらをつかんでいた両足を振りほどきながらジャックは去っていた。

去り際にジャックは「俺はコーンポタージュ味のほうが好きだぜ……」と捨て台詞を残していった。

ジョンが出されたタピオカ・ミルク・ティーを飲んでいると、3マイルほど手前からジャクリーン警部補が小太りでやってくるのが見えた。

「悪い、待たせたな」

「ガイシャは?」

ジョンが聞くと、ジャクリーン警部補は懐から3枚のチェキを取り出した。

「被害者はジョセリーヌだ。彼女の38人目の子供も殺された。」

ジョセリーヌが一昨年再婚したのは、ジョンを除く、その場の誰もが知っている事実だった。

「凶器は?」

「井村屋のあずきバーだ」

「犯人(ホシ)の目星はついているのか?」

「はっは、いいや、それが分かったら誰でもマルクス・アウレリウス・アントニヌスさ」

全く ジャクリーン警部補はときたら、下半身しかないのに口の減らない野郎だぜ。

きっと最近できたという新しい彼氏 が事件に絡んでるに違いない。聞けば今度の彼氏は珍しく脊椎動物らしい。これまで軟体動物しか相手にしてこなかった ジョセリーヌ にしては珍しい。

「邪魔したな」

ジョンはそういうと、出されたカレーうどんを一口で飲み干すと、PayPayで勘定を済ませ、ジャクソンファイブの”ABC”が流れる店内を後にした。

外に出ると、あれだけ降っていた 土砂降り が嘘のような猛吹雪だった。

「全く……いい大晦日になりそうだぜ……」

ジョンはそうつぶやくと、セグウェイにまたがった。

これもまた一つの、

即位礼正殿の儀なのかもしれない……。

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